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2025年06月30日
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余暇 2

2008年11月04日

余暇 1のつづきです。

これで、本当に終わりにする、つもりです。

 

 旅支度を済ませた留三郎を、伊作は小屋の前まで見送りに出た。
 またな、と言う留三郎にじゃあまた、と答えようとした時。
 草原から、開戦を告げるほら貝の音が遠く響き、伊作の表情がすっと引き締まる。
 そのまま目を合わせ、小さく頷きあうと、留三郎はさっと小屋に背を向けた。
 一歩、二歩、歩き出してから妙な違和感を感じて振り返る。

「おい」

 留三郎の低い声に、小屋に戻りかけた伊作が首だけで振り向いた。

「何だ?忘れ物か?」
「伊作、あれは一体何だ」

 留三郎の指がさしたのは、小屋の屋根。
 板葺きの屋根の押さえに、縦横に渡す竹が、軒のすぐ上の一本だけばっきりと折れている。

「ああ、それか。この間、ちょっとねー。」
「なんでああいう壊れ方になるんだっ!?只でさえボロ屋で屋根もガタガタだろう、漏るんじゃないのか?」
「うん、土間に少しと、僕が寝床を延べた位置に時々ね」

 雨が漏るときは、必ず寝ている上にも雫が落ちてくるあたり、流石は伊作である。
 床の位置を変えたとしても、雨漏りはきっと後を追いかけてくるのであった。

「しょーがねえな。治療と薬の礼だ。直して行ってやる。」

 背中の大荷物を下ろしながら腕まくりする留三郎に、伊作は遠慮なく喜んだ。

「ほんとか。助かるよ。でも、釘やなんか、ないぞ。」
「多少なら持っているぞ」
「なんでそんなもの持ってるんだ?」

 がさごそと荷物をさぐる留三郎を覗き込み、不思議そうに問いかけた伊作からふいと顔をそらして、留三郎はぼそりと低い声で呟いた。

「・・・万年用具委員だからだよ」

 今度は、伊作が笑う番だった。


***************

 
 その日は昨日と打って変わってよい天気で、合戦のドンパチも一際かまびすしい。
 伊作がひっきりなしに訪れる怪我人の応急に追われる頭の上で、留三郎はじりじりと日に焼かれながら鎚を振るった。

「おーい」

 呼ばれた声に顔を上げると、伊作が竹皮の包みを投げてよこした。

「おう。」

 受け取った昼飯はずしりと重い。
 
「多めに握っといたよ。留三郎、体はどうだい?指先、ぽかぽかしないか?」

 言われてみれば、ここ数日よどみがちであった血の巡りがよくなっている気がする。
 あの凄まじい味の薬が効いたということだろうか。
 
「ああ、ありがとうな」

 と屋根の上から声を張った留三郎が汗まみれなら、満足げに頷く伊作もまた然り。
 さっさと握り飯を腹に詰め込み、再び作業に没頭しながら、留三郎はこれから行く先を思い巡らす。
 戦場のさざめきよりも高く、遠く。
 カンカンと釘打つ音が、遮るもののない青い空にこだました。
 





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