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2025年06月30日
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冬を迎える 1

2008年11月04日

忍術学園卒業後の伊作です。
歳時記のようなもの。
年齢は不詳。


 


山あいのその家に戻るのは、じつに半年振りであった。
戦から戦へ、人を助けて渡り歩くうちに、いつの間にか時は過ぎ、気づけば遠く離れた地に立っており。
結果、帰ってくるのにも幾つも山を越える羽目になり、やっと辿りついた我が家は、すっかり寂れてしまっていた。
見上げれば、茅葺の屋根に草が生い茂り、しまいに枯れ果てて寒々しい。
やや少なめに実をつけたらしき柿の木の根元には、熟し柿が干からびていた。
きちんと住みついていたとして、それほど念入りに手入れする質ではないけれども、これは我が家に対する行いとして、些か申し訳ない、と伊作は苦笑しながら軒をくぐった。


***************


ひーよ、ひーよ。

戸外で、ひよどりが声を張り上げている。
暖かく両の手で包んだ湯のみから立ち上る白い湯気が、ほう、とついた息に揺れて散り散りになる。
耳をすませば、冬の足音が聞こえるようだった。

ひーよ、ひーよ、ひ・・・

切なく繰り返す鳴き声に心を添わせていたところ、ふと急にそれは途切れた。
間もなく、鳥の慌て飛び立つ気配が知れる。
伊作は静かに瞼を開け、拭きたての床に湯飲みを置くと、板の間を立っていった。


数枚、色づいた葉を残した柿の木の下、旅姿の仙蔵は、ひよどりの飛び去った方角を眺めていた。
よく晴れた空に、紅葉した山が映えている。
赤、黄、橙、杉の緑。
複雑に織り綴られた色目の上にうっすらと空の青がうつりこみ、まるで手前に空を通して見ているような景色であった。
鮮やかに浮き上がる秋の山並みをを背にし、仙蔵は戸口を出てきた伊作へと振り向いた。

「暫くだな」

と涼やかに言って目を細める。
変わらない、その凛としたほほ笑みに、伊作はうん、と頷き返した。





 
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