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その日、僕は
自分でもびっくり・・・。
あまりにも昔のことなので、最初から仕切りなおします。
尻尾の生えた主人公と、誰か忍たまのお話です。
バリバリに主人公の一人称で進むお話は、初めてでした。
何かこれも、楽しくていいですね。
時々こういう日がある。
遠くから来た沢山の人が道にあふれ、町は見知らぬ匂いのるつぼとなる。
そうはいっても、やっと数日間の出来事を覚えていられるようになった僕だから、これがよくあることなんだと気づいたのは最近のことだ。
草履や、緒太や、ときどき靴や。
そういう面白そうなものが目の前を次々行き過ぎるし、美味しそうな匂いもふんわか漂ってくる。
それで僕はつい、母さんの言いつけも忘れ、ふらふらと道のほうに迷い出てしまった。
途端、誰かに尻尾を踏まれて腰が引け、座り込んでしまったところを後ろから蹴飛ばされた。
あわてくって転げるように走っていたら、道脇の水路に落っこちてしまった。
僕が落ちた水路は、昨日の雨で水かさが増していた。
水面と水底の間を転がりながら流され始めた僕にはもう、どちらが上で下なのか、わからない。
叫ぼうと思わずあけた口から、どっと温い水が流れ込む。
もう駄目なのか。
そうおもったとき、何処からかあらわれた大きな手が、僕の首根っこをつかまえた。
そしてこれまでにないくらい、高く、高く摘みあげられる。
半狂乱になってあばれ、噛み付こうとするびしょぬれの僕を、その大きな人は懐に押し込めた。
暖かいその腹に思い切り噛み付いてみたけれど、何の反応もなく、着物の上から押さえ込まれてしまい、僕はすっかり大人しくなって、押さえ込まれたヘンテコな体勢のまま、その人が大またに賑やかな街道から遠ざかって行くのをぼんやりと感じていた。
むっとしてほの明るい懐の中。
押し付けられた素肌に鼻面が当たり、僕はそこに薄っすらと血が滲んでいることを知った。
さっき、必死で噛み付いた痕だろう。
他に何もすることもないので、ぺろりとそこを舐めてみた。
差し出した自分の舌はほのかに震えているようだった。
やや遅れて、鉄臭い味が口の中に広がる。
ぺろり。ぺろり。
次第に僕は、肌についた傷あとが――古いものばかりだけれど――その一つだけではないことを知っていった。
そのまま僕は、ゆっくりと、何度も、傷跡を舐め続けた。
僕を懐に押し込んで歩く人が、町から抜けたことにはすぐに気がついた。
そのうち空の高みから途切れぬ雲雀の囀りが聞こえてきて、どうやら町外れの野原に来たらしい。
自然、重かった足音は柔らかくなり、草いきれが鼻に通う。
ふと、押さえつけられていた力が緩んで、ついそのまま僕はぐんにゃりとしてしまった。
その一瞬の隙をついて滑り込んできた大きな手が、僕の首根っこを再び掴む。
抵抗する間もなく、高々と顔の近くまで持ち上げられた。
そして、僕は初めてその人の面立ちを知った。
静かな瞳に、険しい眉、頬の傷跡。
それは酷く怖いはずの人相なのに、どうしてか、優しい人なのだと、僕はわかった。
この人にはつくづく叶わないと思ったけれど、草の上にそっと下ろされた途端、自尊心がむくむくと回復してきて、僕はされるがままだった屈辱を振り払うように、体をぶるぶる震わせた。
そっと差し出された大きな手にも、姿勢を低くして身構えてみせる。
けれども、やはりその人は全く動じる風もなく、僕の顎を下から掴み、ぐいと押し上げてきた。
文句を言おうにも、上向かされた咽の奥から声は出なかった。
そのまま暫く、何かを確認するようにしてから、その人はあっさりと僕を離した。
よたよたと後じさったところをまた抱えられ、今度は腕の中にすっぽりと収められてしまった。
負けるかと肩口までよじ登ってみたところ、特に抑えられることもなかったので、僕は思い切り伸び上がって肩の上に顎をのせた。
長閑な景色が遠ざかっていくのが、肩の向こうに見える。
なんて、高いんだ。
雑踏に紛れても、行きかう沢山の足たちに翻弄されていたのが嘘のようだった。
人間のつむじと、店の軒ばかりを悠々と見送って、僕はすっかり気分がよくなってきた。
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わんこを拾ったのが誰か、大体お分かりかと思います。
実は、このお話で彼を初めて書いたのでした。
多分、人としてより前に書いていた・・・はず???あれ?
自信がなくなってきた!
わんこ大好き。
最近、自分が書きたいのが忍たまではなく、景色と動物なのではないかと思えてきて、不安です。