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人として 終
考えていたら、書けました。
一言だけ。
伊作さんが好きです(知ってるよ!)。
一瞬の逡巡ののち、
「あの・・・」
と口を開きかけたまさにその時。
廊下に佇んでいた二人の丁度間を、若草色の人影が風を巻く勢いで駆け抜けて行き、後に続くはずの言葉をを喉の奥に宙ぶらりんにしたまま、乱太郎は固まった。
間髪を入れず、負けず劣らずの剣幕で滑りこんでくる三年生がもう一人。
駆けてきた勢いを殺せずに、あわや衝突しかける寸前で、何とか足首を利かせて踏みとどまった。
「うわああっ・・と、すんません。って、おいこら左門!次の教室はそっちじゃねえって!」
左門よりは些か周りが見えているらしい作兵衛は、二人に気風良くと頭を下げると、すぐさま再び左門を追って走り始める。
まるで嵐か竜巻のような三年ろ組の背中を呆然と見送ることしばらく。
乱太郎は、ようやく置き去りになっていた会話を思い出して振り返る。
ところが丁度真後ろには、いつの間にやら図書室から長次がぬっと顔を出しており。
間近でかっちりと目が合って、驚きに魂の抜けかける乱太郎をよそごとに、長次はいつも通りの仏頂面で、無言のまま庭をついついと指した。
「そうだね、ここで立ち話は落ち着かないよね。ありがとう長次。」
6年の同級生活のためか、もう慣れっこと見える伊作は図書室の主ににこやかに感謝して、行こうか、と乱太郎の先に立って庭へと降りた。
乱太郎も慌ててぴょこんと会釈して、外廊下を飛び降りる。
綿足袋ごしに、しっとりとした黒土の感触が気持ちいい。
薄水色の空のもと、夏に向かう季節の中で、木も草も、なにもかもがピカピカと出来立てに光っている。
木立を抜けたところにある、岩場。
並んで腰かけ、寄ってきた雀らに干飯をくれてやりながら、伊作は聞こうか、と切り出した。
「・・あの、忍者の三禁って、ご存知ですよね」
「酒・欲・色だね。」
「いっつも思うんですけど、忍者って一生お酒飲んだり、優しさを持ったりとか、その、結婚したりしちゃだめだってことなんですか?」
それはあまりに、悲しいし、寂しいと、乱太郎は思うのだ。
そんな風に無理をした自分の未来を思うと、心がかさかさになりそうで。
それなのに忍者として尊敬する先生や・・・父や、誰もそんな乾いた人間ではないし、厳しくも優しく潤っている人ばかりだ。
三禁、という厳しい枷を、忍者になりたい自分にどうはめていけばよいのか、乱太郎はわからずに混乱する。
思いがけぬ疑問をぶつけられ、伊作は僅かに瞠目したが、すぐに乱太郎の意を汲んだらしかった。
「忍者に相応しい人間の特徴にね、人柄がよいことだって含まれているんだよ。誰かに優しくしたり、誰かを愛してその人と共に生きようと思ったり、・・・そんなことが全然出来ない人間が、立派だと思うかい?」
ふるふると首を振る乱太郎に、伊作は目を細めた。
「そうだよね、そうじゃなければ、仲間にさえ信頼され辛い。お酒だってそうさ。下戸よりは飲めたほうが色々と有利なのが実際で。嗜みとして大切なんだ。ただね、それで身を持ち崩したり、任務がおろそかになってはいけないっていうことなんだよ。人間はあんまり強くないから、それを三禁としてしっかり戒めておかなければ、守っていけないんだ。」
そうかあ、と一応は安堵の表情を見せた乱太郎だったが、すぐにはっと思い至ると、やはり悲しげに眉を下げてしまう。
「でも、私、性格が忍者に向いてないって言われるんです。あの・・・それで」
「うん、僕もだね」
「・・・はい。」
二人の手から零れた飯粒を、雀がちゅんちゅんとつつく。
つつく度、かえってあさっての方角に飛び散るそれを追いかける、短い羽音が耳をよぎった。
「・・・そうだねえ、皆それぞれ個性があるからなあ。うーん。例えば、遠くのものを見つけて、それをいち早くとりに行かなきゃいけない、でもその場を離れられないとき、乱太郎はどうする?」
暫し考えたが、間もなくして、答えは自然と沸いてきた。
「えーと、きり丸に見てもらって、しんベエに居てもらって、私が走ります」
「それとおなじ事だよ。もし一人きりだったらひとつの欠点は命取りなんだろうけど、乱太郎には沢山仲間がいるだろ?それに。」
そこで小さく言葉を切って、伊作は、どこか楽しげに乱太郎を覗き込む。
「どうして、沢山の人が乱太郎が困ったときに手を貸してくれると思う?」
「えっと・・・・」
「乱太郎の持ってる優しさが、皆をつないでるところもあると思うんだ。忍者としての欠点も、そうなれば長所だ。」
そう言って、単純じゃないだろ、と笑う。
乱太郎はぱちり、と目を覚ましたように瞬いた。
伊作の言葉に、ひとつひとつ、心の澱が消えていくようだ。
・・・それでも、最後にひとつだけ。
それを口にしながら、声が少し震えたかもしれない、と乱太郎は思った。
「私は・・・・一流の忍者に、なれますか?」
一瞬伊作の目の奥に、射抜くような光が閃いたのは、気のせいだったのだろうか。
しかし、それにはっとしたときには、その眼差しはいつもの柔らかさを取り戻していた。
「それは、誰にもわからない。」
勇気を振り絞ったであろう問いに、あっさりとそう返されて、じれる乱太郎ににっこりと笑うと、伊作はのんびりと言葉をついだ。
「隙のすくない奴はいるよね、六年で言うなら、仙蔵とかかな。でも仙蔵だってたった一人でなんでも出来るわけじゃないんだぞ。それに、一流の忍者になることだけが、全てじゃない。大事なのは君が幸せになれるかどうかなんだ。無理ばかりして一流になったって、それは幸せではないだろ。」
幸せ。そう言われて、乱太郎は戸惑う。
意識せずに過ごしている、今はきっと幸せ、なのだろう。
それは大切な人が、友達が、先生がいるからなのかも知れない。
「幸せ」の形ははっきりとは解らなかったが、一流になることとそれが同じ意味を持たない、ということはなんとなく理解できた。
一生懸命に考えを巡らしているらしい後輩の円らな瞳を、伊作は微笑ましく見つめる。
「あと五年あるよ乱太郎。よく学んで、悩んで、幸せになるんだよ。」
その最後の言葉をひとつひとつ、区切るように大切に伝えると、伊作はゆっくりと目を伏せた。
そしてまっすぐに顔を上げ、視線を輝く木々の緑に移ろわせる。
何か遠いものを慈しんでいるようなその横顔を見つめるうち、いつしか乱太郎は淡い憂いを忘れていった。
その代わり、胸に広がるのは、与えられた暖かさに寄り添うようにして生まれてきた寂しさだ。
――私が二年生になればもう、このひとはいなくなってしまうんだ――
知っていたはずのことが、何故か急に迫って思えて、胸のあたりがすうと冷えた。
この人がここを去るとき。
そのとき自分はきっと泣いてしまうんじゃないだろうか。
平和な学園の庭に遊ぶ、雀たちはまだ飯粒を追いかけている。
乱太郎は目の奥からつんとこみ上げそうなものを紛らわすかのように、干飯を投げる手に力を込めた。
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これ、土井先生の役割だ。と気がついたのは書き終わってからでした。
そのほうがずっと自然かも・・悩みます。
えーと、懲りずにもう一言。
伊作さんに「愛」って言わせてしまった。
うわー。(混乱中)
最近わかってきました。
伊作さんへの気持ちは、尊敬の一言につきます。
弟子になりたいです。
・・・末期すぎる。
密かにすきなのは、作兵衛です。
やんちゃでかわいい!
あ、一応アニメベースっぽい話でした。
どちらでも構わないと思うんですが。