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2025年07月03日
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幻冬

2008年11月18日

新しいお話。
続くかどうかは不明!






秘境とも呼ばれる深山の冬は厳しい。
白い太陽が眩しい光を投げている真昼。
にも関わらず、全てのものが凍りつき、頂を越えてきた雪はさらさらとして、里に降り落ちる花びらのようなそれとは質を異にする。
戯れにひとすくい、とって中空に投げ上げてみれば、雪は、ひとつぶひとつぶ六角に結晶したまま、微風に靡いてきらきらと光った。
新雪をすくって、舐めるように口に含むと、結晶は舌の上でさっと溶け、乾いた喉を冷たく潤した。
雪深い山中は、時が止まったかのような無音の世界だった。
積雪がすべての音を吸い込むのだとはいえ、この日和に、小鳥もいないとは。
訝しく思って横目に辺りを見回した、そのとき。
不意に、はるか頭上でガラガラと氷の崩れる音が静寂を破った。
陽光が、大樹の梢に凍てついた氷柱を僅かにゆるませたのだ。
きらきらと美しく輝きながら、羽衣のような雪煙をひいて、白の凶器がまっすぐに滑り落ちてくる。
見上げた天の何と澄んで青いことか。
危ない逃げなければ、と思うのと同じ強さで、その青の中を切り裂いてくる凶器の、凄まじいまでの美しさが凍えた瞳に焼きついた。

間一髪のところでそれをかわし、伊作は手ぬぐいで覆った中から白い息を吐いた。
気まぐれに通り抜ける風が、冷たい。いや、痛い。
頬に針のささるようだ、と伊作は思いながら、雪に埋もれた林道の先を睨んだ。
この山奥に、人を避けるように隠れ住む名医がいるという。
会って、教えを請うまでは、と、重い足を、一歩また一歩と踏み出した。

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