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2025年07月01日
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白妙

2009年06月26日
書き直しています。
うーん・・・・。
長くなってきました。
一度、区切った方がいいかもしれません。
 
「僕達は首謀者を燻りだし、城を奪還します。けれども本物の殿様がおいでにならなければ、誰も僕達の言うことを信じないでしょうし、何もかも元通りにはなりません。先輩方は、それまでに、殿様の奪還をお願い致します。それが、僕達の作戦です。」

庄左ヱ門をはじめとした六年は組のたてた作戦は、単純ではあるが非常に現実的かつ明快なものであった。
酷く難しいことをさらりと口にしながらも、 庄左ヱ門の眼差しに迷いは無かった。
解ったと、二つ返事で引き受けた忍務は、留三郎の心中の奔流ともぴたり重なる。
必ず果たして見せると一同に誓い、仙蔵、文次郎と共に明けきらぬ城下の町を後にした。
しかし。


「な・ん・で!この面子で女装なんだっ!」

昼日中、砂埃の街道で、足早に先を行く仙蔵のやや小柄な背を睨みながら、留三郎は低く呻いた。
仙蔵は、一度うるさそうにちらとこちら振り返ったが、ろくにこちら顔も見ぬうちに、しゃんと背筋を伸ばして前へ向きなおってしまった。
その、美しい裾捌きと、おとがいやうなじの透き通る肌、背に流れるしなやかな黒髪。
娘姿が堂にいっているのは仙蔵だけで、どう足掻いても逞しさの隠せない留三郎は、慣れぬ・・・少なくとも久方ぶりの女装に居住まいが悪くてしかたない。
仕方なく袂をさらにしっかりとかき合せていると、仙蔵のついたわざとらしいため息が耳に通った。

「文句を言うな。大体、お前らがやれ六部や雲水だと変装するものですらいちいち揉めるからいかんのだ」
「だからって!そこらの本を適当に開いたところにあったものに変装することはないだろうが!見たか、文次郎のおぞましさを。」

留三郎のさらに遥か上を行く娘姿の似合わなさで傍らを行く文次郎も、逆らいはしないものの、その表情は冴えない。

「秘伝書にいわく、不自然な変装ならばしないほうがマシ、だ。」

しかし、そう聞いたところで仙蔵は、微かに肩をすくめただけで、もう振り向こうとさえしなかった。
それきりむっつりと黙って歩き続ける文次郎を、留三郎は横目にじろりと睨む。

「大体文次郎、お前が俺に手を貸す理由が見当たらん。とっとと吐きやがれ。何をしに来た」
「仙蔵に借りがある。」
「何だそれは」
「それに、長期任務と関わりのある件かも知れんのでな」
「・・・・」

聞いて、僅かに瞠目した留三郎は、無言のまま文次郎の険しすぎる娘姿から視線を逸らした。
ふと、各国をかき回している神出鬼没の幻術遣い、雲黒斎の名が脳裏をよぎったが、口を一層引き結んで街道の先を見据える。
仔細は解らずとも、共通の利益があるからこその共闘。
ましてや、ここまで来て裏切るような男でもない。
ならば、互いの任務には干渉しないのが、忍びの者の礼儀でもある。
三人はそのまま、日が傾きかけるまで黙々と街道を歩き進んだ。
やがて、薄い夕闇の向こうに、ぽつぽつと仄明かりが浮かび始める。
スッポンタケとの国境に程近い宿場町が見えてきたのだ。
各国を繋ぐ人と流通の血脈でもある街道には、自然、宿屋が軒を連ねる。
それがやがて主要都市と負けず劣らずの賑わいを見せるまでに発達した「宿場町」は、巡礼や旅の商人の仮の宿りであるばかりではなく、近年では盛んに物の売り買いまでなされるようになった。
人の集まるところ、また情報も然り。
領外に出てから四箇所目の宿場町は、これまでの空振り続きからの起死回生を狙うには格好の場所である。
とっぷりと暮れるころ、ようやく宿街に足を踏み入れれば、街道と打って変わった人賑やかさが三人を呑み込んだ。
もの売りと、暖簾の影から白い手で招く甘やかな呼ばい声をすり抜けた先に、一件の宿屋があった。
古い看板に掲げられた屋号には「団扇屋」とある。
構えから察するに、この宿場では羽振りも一番の宿らしい。
それを見て、仙蔵は僅かに指を動かした。
ただ、それだけの合図。
しかし三人は視線を交わすこともないままに、あい通じ合って動いた。
きゅっと顎を引き、宿屋の店先へ颯爽と歩みを進めたのは仙蔵。
その後に続く二人は背を小さく丸め、袖で面(おもて)を覆った。
足取りは意図して重く見せ、時折肩を震わせもしながら、泣いているような体をつくる。
先を行く涼やかな美女と、悲嘆にくれた二人の女の対比に、往来は自然と左右に開いて道を譲った。
もし、と呼びかけた高い声に暖簾を分けて店先へ出てきたのは宿の主人らしい。
手もみして客を迎えに来たその初老の男に向け、仙蔵は黒い瞳を潤ませた。

「お願いが、お願いがございます…!」

初めから必死に言いすがりながら、仙蔵は己の声の調子や眼差しの帯びる色合いを、裏腹酷く平静に保たれた思考の中で軽妙に操作する。
今、取り入ろうという相手は、宿場の宿屋の主人。
ともなれば、行きずりの商売人達の身元保証もこなす「人物」でもあるわけで、その慧眼を欺くのは生半可な演技であってはならない。
仙蔵の洞察通り、主人は僅かに瞠目したが、落ち着きを保ったまま、どうかされましたかと柔和な気遣いを見せた。
しかし、目を瞬かせたとたんにほろりと色白の頬を伝った涙には、流石に瞳の奥を揺らめかせた。
仙蔵が狙いすましていたのは、一切の疑いを忘れるであろうその一瞬の隙。

「私達は、都の大店の息女にございます。遊行に出かけた父が、もう一月も戻りません。よもやどちらかの宿場に寄っているのではないかと思い、訪ね回っているのでございます。お店は母が切り盛りしておりますが、このまま父が戻らなければお店も私達もどうなることか…」

一息に言って、そっと袖で涙を拭うと、主人は心からの同情をもう隠しもせずに、仙蔵を気遣わしげに覗き込んだ。
笑い皺のある目元が、優しく緩む。

「お嬢さん、どうぞ落ち着いて。お力になれることなら何でも致しましょう。お父上の人相や風体をお聞かせいただけますかな?」

涙に濡れた面(おもて)をはっと上げ、仙蔵は袂から一枚の紙を取り出した。
丁寧に畳まれたチャミダレアミタケ城主の人相書きは、乱太郎の筆によるもの。
さらさらと自由な筆遣いで書かれたものだが、特徴を的確に捉えたそれは、殿を良く知る留三郎誰をも唸らせる仕上がりであった。
さて、宿の主人はそれが目の前で広げられた途端、あっと言って口元を押さえた。

(当たったか…!)

仙蔵の瞳に、演技でない喜色が浮かぶ。

「見覚えが、あられますのね?!」
「確かに、こちらに長逗留されていたお客様です。この方のことならば、私よりも…」

と言い掛けて主人は、宿の奥へ向かって「ののう殿、ののう殿」と、呼びかけた。

「あい」

答える声のあとを、しゃん、と鈴の音が追いかける。
やがて、暗い廊下の奥右手で、するりと静かに戸が開く。
その奥から、店先の明かりの近くへしずしずと出てきた女は、ちらりと仙蔵を見て微笑んだ。
緋色の小袖に白の打ち掛け。
紅ののった口元からは、鉄漿した歯が覗いている。
遊行の聖職者、歩き巫女だ。
祈祷や口寄せの傍ら、芸能も嗜む流れ者である。

「夜更けの口寄せかえ?」

しゃんしゃんと、女の出てきた奥の間からまた鈴の音が零れてくる。
「これ」と、女が声をかけ窘めると、幼い笑い声がして、その音がぴたりと鳴り止んだ。

「失礼を致しましたのう。して、占いじゃったな?」
「いえ、ご存知のことで結構でございます、どうか巫女様、お導きを…」

そういうと仙蔵は、懐から出した丁銀の片割れを、恭しく女に差し出した。
それを見て、女は僅かに息を飲んだようだった。

「あれまあ、仰山」
言いながら、白い指先が、受け取った銀子の刻印を確かめるようになぞる
そしてそれを袖の中におさめると、女はその袖でふわりと口元を覆った。
黒目がちな切れ長の眼が、作り眉の下で小さく細まった。

「お父上のことじゃったの?」
「聞こえておいででしたの」

白いものに塗れた口はしで、そっと笑うと、女はやや潜めた声で語り始めた。

「長逗留されていた御仁は、三人の男に連れられてここにおいでじゃった。時折私も召されて舞うた。そなたには気の毒じゃが、お父上は普通の様子ではあられなかったのう」
「と、申されますと?」
「何かまやかしの中にあるような、そんな風じゃった。西国剣豪巡りの最中だと申されて、随分とはしゃいでおられたが、実際は部屋に一人でこもり、時々笑ったり、声をあげたり」

(間違いない)

幻術薬の効果だ、と仙蔵は確信する。

(三人の男の中に幻術を遣う者がついているのならば厄介だが、ただ薬を託されただけかもわからん)

「そんなことがずうと…つい先ごろまで続いたあとかのう。丸い顔の女子しが訪ねてこられて、それから間もなく、急に引き払ってしまわれたのじゃ」
「そう…ですか」

丸顔の女、と聞いて、背後の留三郎の肩がぴくりと揺れた。

(なるほど、その女とは、スッポンタケの元刺客か)

ここはスッポンタケの国境近く。
スッポンタケ縁の忍びとの接触により突如姿をくらましたとなれば、茶乱網武の身柄がスッポンタケに掌握された可能性も浮上してくる。
遅かったか、と仙蔵は目を伏せた。

「その三人の男じゃが…綺麗ななりを装いはしておったが、冥加山のならず者ではないか、と、皆噂しておったのう」
「ということは、父は山賊に…」

そのならず者とやらと雲黒斎、そしてスッポンタケがどう繋がるのか、仙蔵にもそればかりは闇の中である。
青ざめてみせた仙蔵を、女は気の毒そうに見つめ、

「ご心配でございましょうが、私がお話できるのはここまでじゃ」

そう言って口を閉ざした。
帰り際、丁重に礼を言って店先を辞そうとした仙蔵の袖をついと引き、女は

「神楽も舞って差し上げられませなんだ。お守りになされませ」

と、梔子色の扇を差し出した。
受け取って拡げた扇には、美しい崩し字で、冥加山の魂兵党と記してあった。
ひっそりと微笑む女と宿の主人にもう一度深く頭を下げ、三人は再び夕闇の中に出て行った。
まだ賑わいのさめぬ通りを流しながら、仙蔵は足取りを速めて追いついてきた留三郎をふと呼んだ。

「留三郎」
「ああ、やっとだな」

留三郎が数ヶ月捜し求めた、城主へ繋がる糸口。
漸くそれを手に出来た安堵よりも、心は寧ろ先を求めて急いている。
しかし、これで一歩、確実に近づけた。
町外れまで出ると、やや緊張がほぐれたのか留三郎はやれやれと大きな息をついた。
文次郎も、顔を隠し続けた袖を漸く取り払い、すっかり固まってしまった首の後ろを揉み解しながら、片目を開けて仙蔵を見た。

「ご苦労さん、首尾よくいったな」

労いに、仙蔵は笑みを見せる。

「ああ、お前達も。城主は幻術をかけられた上、騙されて連れ出された…のだろうな…」
「…山賊、魂兵党か…名くらいは聞いたことがあるが」

留三郎は、すっかり女らしい所作を脱ぎ捨て、肩までまくった腕を組んでいる。
背を預けた柳の枝に葉はなく、冷たい夜風に、ぱらぱらと寂しく揺れた。

「どんな輩だ」
「悪党に毛の生えたような奴らだったと思う。確か、三人組だ」
「雲黒斎と、繋がりは無えのか」
「解らん。只、ここらを地元にしている山賊だから、繋がったとしたら今回の件限りのことだろう」
「兎に角、そ奴らをひっ捕まえねばならん」
「山、だったな。夜っぴて歩くか?」
「ああ、その前に女装を解いていこう」

仙蔵の提案に、留三郎と文次郎は、声も立てずに喜んだ。







目立たぬよう、分け入った茂みの中。
小袖を肩から滑らした仙蔵の袂から、梔子色の扇が滑り落ちた。
それをひょいと拾い上げた留三郎は、片手で無造作に忍び装束を引っかける傍ら、それを空いた手で弄んだ。
巫女の女の、密やかな微笑が思い出されると同時に、ふと小さな気がかりが生まれて、留三郎は無言で仙蔵の支度が進むのを待った。
髪を結い上げ終わった仙蔵に再び扇を返しながら、問う。

「そういえば、巫女殿に渡したあの切銀、いいのか、あんな大金」
「あれは此度のことでお前から私に支払われるべき礼金の一部だろう?」

答える間にも、仙蔵は素早く身なりを整えて軽く跳び、街道へ降り立った。

「お、おい、待った、仙蔵。ちょっと待て」

僅かに裏返った友の声を心地よく後ろに聞きながら、仙蔵は闇の中へ歩みだす足を速めた。

(少し、急がなければなるまい)

目指すは、冥加山。



*********


もうちょっと書き込みますが、大体こんなかんじで・・・・
歩き巫女、好きなのねっていう感じですね。
これについてはまた後日。
全体的にややこしく、わかりにくいかと心配です。
うーん難しい。
スーパー女装タイムが終わりと見せかけて、まだやります。
次は、は組です。
資料がもろに使えるっぽいので楽しみ。
うふふふ。
明記されているのをみたことは無いんですけれど、そのネタを使わせるには、性別に無理があるんです。多分。
でも、無理を通そうかどうか・・・迷い中です。
男忍と同じように戦いで活躍したくノ一はいない(記録は無い)、とか、そういうことは今までも平気で無視してきたわけですし、やりたいことをガマンするために調べているわけじゃないですし。
ところがです、尼子先生は多分、そのタブーを守っているんです。
さあ!どうしましょう!




 
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