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2025年07月01日
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白妙に 4

2009年01月24日

大変難産でした。


 

 
 勧められた円座に腰を落ち着け、仙蔵は古びた燭台に灯りが点るのを見つめた。
 留三郎の手をかざした辺りから、ぽうと光が生まれ出て、濃い闇が掃われる。
 まばゆさにすうと目を細めると、それまで影でしかなかった室内の細かな造作が浮き上がってきた。
 ふと仙蔵はその部屋の片隅、目立たぬように寄せられた旅支度に目を留めていたが、やがておもむろに語り始めた留三郎へと瞳を上げた。
 
「忍び組頭が・・交代したのは知っているな?」
「ああ」
「この城・・チャミダレアミタケ城が狂いはじめたのは、それよりも前のことだ・・・」
 
 最初の違和感は、留三郎が長期任務から帰ってきてすぐに見出された。
 稲穂のようやく色づき始めた初秋の頃。
 確実に何かが変わった城内は、ただ内部から朽ちていくような、怖気のする空気に満ちていた。
 それから間もなく、長らく剣術指南役であった剣豪、灰洲井溝が自ら職を辞した、という報せが噂に乗って流れた。
 やがて命じられるようになった、近隣の城に対する嫌がらせ、もしくは略奪まがいの忍務。
 それに対し、異議を申し立てると言って宴席を立った組頭は、翌日速やかに罷免され、新たな組頭が後継に立てられた。
 その人選に、忍び組の者達は驚愕したという。
 
「それが今の組頭だ。」
「いい噂は全く聞かないが。一体誰なんだ。」
「元スッポンタケの刺客だ」
「何・・・?」
 
 聞いて、仙蔵は思わず眉をひそめた。
 スッポンタケ城と言えば、悪評高い戦好きの城である。
 一帯の領地を全て我が物にしようと目論むスッポンタケにとり、前に立ちはだかる武勇の城チャミダレアミタケはまさに目の上の瘤であり、これまでに何度も刺客を放ってきている。
 まだ記憶に新しい、茶乱網武暗殺計画。
 紅葉狩りの宴に紛れ、任務の達成を図ったスッポンタケの刺客が数人あった。
 しかし彼らは、茶乱網武もろとも自分達も亡き者にしようとしたスッポンタケ城のやり口に愛想をつかし、その後チャミダレアミタケへ寝返った。
 もとより敵方の忍びであった彼らから、決して目を離してはならぬと先代の組頭は口をすっぱくして言っていたものだった。
 その刺客達が、忍び組の中枢を支配するようになったという。
 新しい組頭の命に抗した留三郎の同僚の多くは毒を盛られるか、もしくはいわれなき咎で牢に入った。
 留三郎は脅迫と懐柔を受けながらも監視を掻い潜り、独自に調査を進めていた。
 
「ここのところのおかしな任務・命令・・近隣の全ての城から戦を仕掛けられても何の不思議もない傍若無人なこの城のふるまい・・その全ては殿の勅命によるものだ。城の者、特に重臣はそれに疑問を持っていない。
そしてあれ以来、殿にはお目通りがかなわん。」
「どういうことだ」
「信じたくもない話だが・・恐らく、殿が摩り替わっている。」
 
 僅かに瞠目した仙蔵を見とめ、留三郎は険しい表情のまま、訥々と言葉を継いだ。
 
「城内・領内は虱潰しに探した。恐らく本物の殿は国外にいる。しかし、殿のお命を握られている可能性が・・」
「待て。では今城に・・おわすのは何者なのだ」
「確証はないが、おそらくこんなことが出来るのは・・」
 
 幻術遣い。
 そう言い切った留三郎に、仙蔵は一瞬沈黙した後、満足げに息を漏らした。
 
「そこまで解っているのなら上等だ。」
 
 そしてひとつ瞬きをすると、不敵な笑みを口元に薄く浮かべ、音もなく立ち上がる。
 その仙蔵が背にした扉の向こう、街道を近づいてくる穏やかならぬ気配に、留三郎ははっと目を見開いた。
 不自然に殺した足音。数はおそらく十人余。
 何よりも、洗練された忍びの者特有の、この気色。
 留三郎は、ざっと下がって素早く灯りを吹き消すと、膝脇に控えていた刀を腰に据え、余裕の笑みを崩さぬ友を睨み上げた。
 
「どういうことだ、仙蔵。」
 
 わざと鳴らした鍔音を、仙蔵は聞いたはずだ。
 しかし彼は、まだ緩やかに笑んだまま、留三郎を見下ろして切れ長の双眸を細めている。
 救いの仏か、それとも罠か。
留三郎は内心揺れながら、仙蔵へ、扉へ、交互に視線を走らせた。
嫌な汗が、額をじったりと湿らせる。
 ひたひたと這い寄ってくる気配がいよいよ木戸の前まで迫ったとき、ついに留三郎は扉へ向け抜刀の構えを取った。
 さざなみのように、戸外の足音が澱み止む。
 そして刹那、張り詰めた空気を切り裂くかのように、扉は、思い切り良く引き開けられた。





 
 
「食満留三郎先輩、お久しぶりでーす!」
 
はじけるような元気一杯の大合唱に、留三郎は危うく抜きかけた刀を取り落とすところだった。
幼さをとうに脱ぎ捨てた声音だが、忘れもしない響きがそこにはあった。
あるものは逞しく、あるものはしなやかに、若者へと成長しているようだが、相変わらずの制服姿。
夜目にも解る、懐かしい面影の、笑顔。そしてまた笑顔。
いつも学園中を嵐の渦に巻き込んでいた一年・・・今は六年は組の面々の、22の黒い瞳が、狭い戸口にぎゅうづめになりながらきらきらと円らに光ってこちらを見つめている。
何と、おかしなことばかりの夕べだろう。
あり得るはずのなかった景色をたっぷり数分は見渡した後、留三郎は痛む頭を押さえつつ、やっとのことで呟いた。
 
「しんべえ・・・非常に、大きく、なったな。」
 

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白妙に、は、オールキャラ風味のわいわい話です。
このようにハードルの高い人々を書き始めてしまいまして、ここから先の更新は本当にゆっくりになります。
まだ書ききれる自信が磐石ではありません。
子供のは組しか知らないもので、もうどうしたものか、困惑しています。
こんなプロット立てたのは誰なの?!という気分です。

(^^)マイペースですみません、どうぞご容赦ください。






 
 
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