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うっかりしすぎです
話は短いのに詰め込みなので解りにくいです。
落乱二次創作ではやらないことも、オリジナルなら出来ます。
なので、難ありの部分も多々あるとおもわれます。
それでもOK!な方はよろしくです。
これを、習い性というのだろうか。
ここ数日、降り止まぬ雨の音はもう、身にしみこんで感じられなくなってきていた。
ただ、傘代わりにした大きな蕗の葉を、雨だれがぼつりぼつりと叩く音だけが、やけに耳についた。
蕗の葉から、白々とした玉になり滑り落ちるそれが肩へ浸み、温い体がゆっくりと濡れ冷えてゆく。
それでも抗(あらが)は、そこを動かずにただ雨の音を聴いていた。
この時節、そしてこの日が、再び巡ってきたことを、身体に浸ませておきたかったと、そう言えば彼女はいつものように笑うのだろうか。
ややあって、雨にけぶる泥濘の道を、急ぎ足で来る女があった。
志乃だった。
小袖の上からも解る、華奢な肩。
ほっそりとした腕の中に揺れているのは、野薔薇だろうか。ああそれとも草の王。
この北の地へ、志乃が鈴を追って来てから十月(とつき)。
あぶれもの同士、身を寄せ合うように暮らすこの家の居候をしつつ、花売りを始めたのは今年からだった。
楚々とした、大人しげな娘であったが、もとは流浪の芸人。
見かけによらぬ、不思議な逞しさがあった。
辺りの寂しい町でも、志乃の花は思うよりよく売れている。
そっと会釈して、家に入りかけた小さな背を、一度呼び止めようとして、抗は挙げかけた手を彷徨わせた。
もとより、そこには多分に迷いもあったことだ。
だから、抗はそのときに、声をたてたつもりはなかった。
しかし、志乃は目の見えない分、常人の見えぬものが見えるところがある娘だった。
そのためだろう、何かを察したらしい志乃は急ぎ足をふととめて、立ちつくす抗を振り向いた。
「何か…」
柔らかな志乃の声が、雨音の中に優しく溶ける。
「あ……いや、…」
小首を傾げた志乃にくしゃりと笑ってみせた抗は、曖昧な返事を残したまま、彼女に背を向けてふらり雨の向こうへ歩き出して行った。
遠くなる濡れた足音をきょとんと送るばかりの志乃に、挨拶代わり、ひゅうと吹いた口笛が実に彼らしい。
しかし、日ごろ陽気で、軽口ばかり叩いている抗の、今日湛える不思議な静けさが、彼女の心にずれを残した。
(今、何か、言いかけていたような…。)
何とはなしに目を伏せると、腕の中で、売り物だった花の、微かに熟れた芳香が揺れた。
(抗さんは、この花を求めてはいなかっただろうか)
どうしてふとそう思ったのだか、志乃自身にも定かではない。
志乃にはこのようなこと――誰も言いもしないような人の心が解ったり、次に起こることを感づいたり――がしばしばあり、またそれはよく当たるのだった。
想い巡らしながら、濡れそぼった鬢に触れると、肌寒さがいっそう細い身体にしみた。
小さく身を震わて、志乃は垣根の脇を急ぎ足で、軒へ入った。
黄色い草の王の花びらが一枚、そのあとをひらりと舞い雨に打たれて、やがて泥濘に沈んでいった。
いつの間にか、傘にしていた蕗の葉も、どこかに置いてきてしまったらしい。
山裾で手折ったミヤマザクラの白い蕾を雨から守りながら、抗は村はずれの御堂目指して、獣道を登っていった。
この長雨に、この頃通ったものも少なかったのだろう。
草生えが丈を増し、蔓藤が覆い隠した道を、掻き分け掻き分け、先を急ぐ。
やがて、ぽっかりと森の開けた所に、御堂の葺き屋根が見えてきた。
その更に左奥。
隠れるようにして立っている小さな石の五輪塔。
その前に、見慣れた鴇色の小袖姿が、一途にひざまづいている。
やはり、と、抗は切なく目を細めた。
心の奥が、言いようの無い思いで揺れる。
それは、遠い過去の哀しみであり、今は二人の安らかな秘密でもあった。
隣に立つと、桜は、振り返らずに小さく息を漏らした。
「来たの」
「ああ。折ってきた」
そう言って、桜の置いた花の横に、そっとミヤマザクラの二枝を供えた。
ぽつりと、木立からの雫が、花の芯を濡らす。
「もう、3年か」
桜と、幼かった弟が、母の消息をたずねてこの地に辿りつき、そして同郷の抗と偶然に再会してよりは、3年と半年が経っていた。
その時、弟は慣れない旅の暮らしに疲れ果て、すでにその身は病に侵されていた。
薬を買うために、医師の治療を受けるために。
桜が若い身を落としたと知った夜、抗は眠ることが出来なかった。
そして二人、とりつかれたように働いた日々の果てに、幼い命は呆気なく散って行った。
冷たい雨ばかり降る、この季節のことだった。
それから三年の月日が経つ。
しかし桜は、まっすぐに墓石を見つめたまま、
「まだ、三年よ」
と呟いた。
遊女らしい華やかな装いと化粧は、咲き初めた若い肌によく映えて美しい。
しかし、それはこの上なく悲しかった。
もう一度、一心に手を合わせて祈った後、桜は何かを振り切るように、立ち上がり、振り向いた。
そして微笑む。
それはまるでいつもの通りの、快活な明るい笑顔だった。
それでも彼女は、まだ三年、という。
いつか、その傷ごと、笑顔ごと。
両手を広げ守ってやれるなら、と、願いながら笑い返した顔は、どうにも情け無い表情であったらしい。
あんたが泣きそうな顔をしてどうするのよ、と笑って、先に立った桜の小さな背を、抗は頭をかきかき、追いかける。
この密やかな時間を繰り返して三年。
志乃と鈴の待つ家に戻れば、それこそ嘘のようにいつもの通り、止まった時が流れ始める。
まるで違う国から来たような、気性の揃わぬ若者四人のちぐはぐな暮らし。
馬鹿馬鹿しくも騒がしいこの頃が、抗は少し気に入っていた。
時はどんな傷も溶かすように癒すという。
時折一人でここを訪れていることも、里にいたころからの長い想いも、今はまだ胸の奥でいい。
山裾に生える今が見ごろのミヤマザクラに、抗の無体の跡を見つけてからかう様に笑った、彼女の後ろを守るように、抗はゆっくりと家路を辿った。
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オリジナルも、自由でいいですね。
世界観やキャラクターを自分で作らなければならないのは、けっこうハードルです。
よほどよく練っておかなければ、隙が出そうですね。
この人たちとはもう10年以上なじんでいるので、その点は楽でした。
桜も、結構抗に甘えているというか、救われているみたいですね。
弟が病気と闘っていた当時の話にも、そういえば色々あるのでした。
里にいた頃にも遡ってみたいです。いつか。
抗って、変な名前。
きっと彼は自分でつけたんです。
いえ、つけたのは私なんですけれども。
中二くらいで作った臭いがぷんぷんしますね、あいたたた。変えたい、変えられない。
本編は結構明るいんです。
ラブありどたばたあり、秘密ありと騒がしいです。
このスピンアウト「涙雨」だけはじめじめしています。
(草の王やミヤマザクラの盛りは梅雨時に重ならないんじゃないかなんて、誰も解らないから大丈夫!うん!)
多いなあこういういい加減な描写。
草の王は色が好き、全体の雰囲気が好き、花びらが好き、何より名前がすき。
ミヤマザクラは蕾と花芯辺りがツボ。
よかったら、ぐぐる先生に聞いてみてくださいませ。
梅雨入りちょっと前、春と初夏の間、つかの間に咲く花です。
死、色気、恋。
気がつけば私がらくらんでやらないことの三連コンボでした。
わざとではない。
これは彼らの予定運命。