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2025年07月01日
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とちゅーうです
2010年02月25日
蜜柑の柔らかな果皮に爪を立てたときの、甘く芳烈な香りが、留三郎は嫌いでない。
爪を入れた中心から、果実を中心に抱いて、まるで花弁が開くように、やや几帳面にそれを剥いていくことも。
片や正面に胡坐をかいた人物は、好対照な豪快な剥きっぷりで、さっさと中の小袋を二つまとめて口に放り込んでいる。
やがて留三郎の指先は、白い筋を綺麗に除く事に没頭し始めた。
「で、まとめると、お前は戦国時代のニンジャの学校に通っていて、便所掃除の途中で便器に落ち、這い出てきたら道路の真ん中だったというわけだな」
「だから落とし穴だって言ってるだろう。それに掃除じゃなくて落とし紙の交換だ。それにしてもこれあったかいなあ。机についているところがいい。やっぱり中に炭櫃が入ってるのかい」
しまいそびれたまま、ひと間の中央にでんと居座る炬燵は、余程緑のニンジャのお気に召したらしい。
しかしその原理に触れられた所で、留三郎は直ぐに目を彼から反らした。
部屋に匿ったはいいものの、何気なく開けた冷蔵庫を、得体の知れないものを見る目で凝視されたり、食器棚を空けただけで口元を押さえて顔を背けられたり、仕方ないことと解っていても、いちいちどうにも落ち着かない。
コタツが程よい放熱を続ける仕組みくらい、説明できないこともないが、できることなら面倒は少ない方がありがたかった。
それよりも何よりも、今話すべきことはどっさりとあるのである。
「それでお前、これからどうするんだ」
「そうだな。いつまでもご厄介になるわけにも行かないし、戻る方法を探さないと…留三郎は何か心当たりとかないのか」
「あると思うのかよ」
「だって何だか得体の知れない便利そうなものが溢れてるじゃないかこの世界」
「異様に前向きなやっちゃな…。そうだな…お前が構わんなら明日あたり仲間に相談でもしてみるか?」
「友達がいるのかー。そりゃ助かるよ」
にこにこむしゃむしゃ、と二個目の蜜柑を食べている伊作からは、しかし殆ど危機感を感じることが出来ない。
留三郎は、それが気のせいだと思いたかった。
「なんもかんも、ともかく明日だな。今夜はとりあえずこれでも喰っとけ」
傍らのコンビニ袋から探り出したものを至近距離から無造作に放ると、そこは流石の反射神経というべきか、顔の横でぱしりと受け止める。
三角おにぎりを握り締め、
「飢渇丸を所持しておりますのでお構いなく」
と、不敵に笑うニンジャに、
「うるせえとっとと喰え」
とだけ投げつけて、留三郎は風呂へと立った。
ひとり火闥に残されて、伊作はふと視線を落とす。
左手には三角の握り飯、右手にはよく熟れた橙の。
「たちばな…」
留三郎の去っていった部屋から、やがて五月雨のような水音が始まった。
伊作には、穴に落ちてからこのかた、不思議な出来事ばかり続いている。
しかし本当のところ伊作は、そういったことに早くも慣れてきつつあった。
当たり前のことと、今まで知らなかったことが一つ一つ置き換わっていく中、今はもと居た学園がただただ懐かしく感じられる。
だからであろうか、両手に持った二つのものをそっと近づけてみるだけで、自然と笑みが浮かんだ。
(たちばなと、握り飯)
「い組だな」
独り言は、別室からの不思議な雨音に紛れ、誰の耳にも届かず消えた。
******************
伊作から不運要素が抜けている…!
駄目かなやっぱり。
爪を入れた中心から、果実を中心に抱いて、まるで花弁が開くように、やや几帳面にそれを剥いていくことも。
片や正面に胡坐をかいた人物は、好対照な豪快な剥きっぷりで、さっさと中の小袋を二つまとめて口に放り込んでいる。
やがて留三郎の指先は、白い筋を綺麗に除く事に没頭し始めた。
「で、まとめると、お前は戦国時代のニンジャの学校に通っていて、便所掃除の途中で便器に落ち、這い出てきたら道路の真ん中だったというわけだな」
「だから落とし穴だって言ってるだろう。それに掃除じゃなくて落とし紙の交換だ。それにしてもこれあったかいなあ。机についているところがいい。やっぱり中に炭櫃が入ってるのかい」
しまいそびれたまま、ひと間の中央にでんと居座る炬燵は、余程緑のニンジャのお気に召したらしい。
しかしその原理に触れられた所で、留三郎は直ぐに目を彼から反らした。
部屋に匿ったはいいものの、何気なく開けた冷蔵庫を、得体の知れないものを見る目で凝視されたり、食器棚を空けただけで口元を押さえて顔を背けられたり、仕方ないことと解っていても、いちいちどうにも落ち着かない。
コタツが程よい放熱を続ける仕組みくらい、説明できないこともないが、できることなら面倒は少ない方がありがたかった。
それよりも何よりも、今話すべきことはどっさりとあるのである。
「それでお前、これからどうするんだ」
「そうだな。いつまでもご厄介になるわけにも行かないし、戻る方法を探さないと…留三郎は何か心当たりとかないのか」
「あると思うのかよ」
「だって何だか得体の知れない便利そうなものが溢れてるじゃないかこの世界」
「異様に前向きなやっちゃな…。そうだな…お前が構わんなら明日あたり仲間に相談でもしてみるか?」
「友達がいるのかー。そりゃ助かるよ」
にこにこむしゃむしゃ、と二個目の蜜柑を食べている伊作からは、しかし殆ど危機感を感じることが出来ない。
留三郎は、それが気のせいだと思いたかった。
「なんもかんも、ともかく明日だな。今夜はとりあえずこれでも喰っとけ」
傍らのコンビニ袋から探り出したものを至近距離から無造作に放ると、そこは流石の反射神経というべきか、顔の横でぱしりと受け止める。
三角おにぎりを握り締め、
「飢渇丸を所持しておりますのでお構いなく」
と、不敵に笑うニンジャに、
「うるせえとっとと喰え」
とだけ投げつけて、留三郎は風呂へと立った。
ひとり火闥に残されて、伊作はふと視線を落とす。
左手には三角の握り飯、右手にはよく熟れた橙の。
「たちばな…」
留三郎の去っていった部屋から、やがて五月雨のような水音が始まった。
伊作には、穴に落ちてからこのかた、不思議な出来事ばかり続いている。
しかし本当のところ伊作は、そういったことに早くも慣れてきつつあった。
当たり前のことと、今まで知らなかったことが一つ一つ置き換わっていく中、今はもと居た学園がただただ懐かしく感じられる。
だからであろうか、両手に持った二つのものをそっと近づけてみるだけで、自然と笑みが浮かんだ。
(たちばなと、握り飯)
「い組だな」
独り言は、別室からの不思議な雨音に紛れ、誰の耳にも届かず消えた。
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伊作から不運要素が抜けている…!
駄目かなやっぱり。
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