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2025年07月01日
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ゲンパロ

2010年07月26日
軋むような物音と、風の揺らぐ気配に留三郎は目を覚ました。
閉めて休んだはずのカーテンが大きく開いていた。
ベランダからの照り返しが、覚醒したばかりの網膜に眩しい。
そこへうっとうしいほどの長髪頭がひょいと覗いた。

「あ、おはよう」

いい笑顔である。
残念ながら昨日の出来事は夢ではなかったようだ。
それはさておき、ベランダに出た伊作の手には。

「…洗濯物?」

これは何事であろうか。
留三郎は腹をかきかき、のろのろと寝床から這い出した。

伊作曰く、

「一宿一飯の恩というだろう?」

一夜の宿りの返礼というつもりらしい。

「返し方がささやかだなほんとうに…洗濯機を使ったわけはないよな。ちゃんと洗えてんのかこれ?」
「しっかり踏み洗いしてやったんだからご心配なく。乾し方は他所のお宅を観察して学習ズミです」

やけに誇らしげに語る言葉を聞き流し、留三郎は朝日の眩しさに目を細める。
まずまず、良い天気である。
視界の隅で揺れるプラスチック角型ハンガーには春先の少し強い風に翻る着古したタンクトップ、靴下と、それから、細長く白い布地。結わえ紐をその端から棚引かせ、そうそれは、まさしく純白の晒し木綿の、フンドシ…フンドシ…

「おまえ、ふふ、フンドシとか公衆の面前で乾してんじゃねーよ!!!」
「え、何かまずいのか?」
「まずいだろうが!」

留三郎の通う総合大学を中心に据えたこの町は、学園都市とまでは言わないものの、住人に学生の占める割合が大きい。
とりわけ、大学通いに便利のいいこの地区はそれが顕著で、ベランダごしに隣接するアパートにも同学科の、しかも同クラスの野郎が自分と同じく間借りしている。
よりにもよってそれが真向いの部屋ときている。
まさか野郎の下着を値踏みする趣味はなかろうが、誤解の芽は先んじて摘んでおくに限る。

「おまえ、ほんといい加減にしろよ…!」

焦って取り込みにかかる留三郎をよそに、気風よく吹き抜けた春一番に煽られて、軽いプラスチック角型ハンガーはステンレスの物干し竿を鮮やかに滑った。
留三郎の指はそれを追い、何とか問題の布の端をとらえたが、洗濯ばさみが弾けたところで、足元ではつっかけただけのサンダル履きが軽くもつれた。
体制を立て直そうと踏ん張る傍からやおら強い一陣の風。

「どわあ!」

ベランダから身を乗り出す留三郎の目の前で風に浚われたそれは天女の羽衣よろしく舞いながら、斜め向かい、小奇麗なオートロック付アパートのエントランスへ…

「なん…だと!」

留三郎が手すりに寝癖頭を擦り付けて呻いたのも無理はない。

「しまった!折角洗ったのに!」

弾かれたように走り出手行った伊作の背中を留三郎は追いかける。

「そういう問題じゃねえ!」



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す。すみません!!!!!
久々がこれで本当にすみません!
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