[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
線香花火
現パロ、書ききりたかったんですけれども、どうも暫く時間がとれそうになく、こちらのとサイトの更新が止まります。
お休み前に、現パロのずっと後のシーンをひとつだけ、置き土産しますね。
現パロの題名は、線香花火と言います。
色々、生活上の事件とか、他の六年との出会いを経て、たどり着くシーンです。
最初のうち、伊作はどこを歩くときも物珍しそうに辺りを見回し、しばしば些細なことに引っかかっては足を止めていたものだが、数日暮らすうちに、それは随分と落ち着いた。
少し遅れて後を歩きながら、留三郎はふとそのことに気がついて、感心した。
柔軟なものだ。
自分であったら、世界に馴染むのに一月はかかるかもしれないと想像する。
(だが戦国時代にタイムスリップなど、絶対に御免だ)
そう心で呟いて目線を戻すと、前にいたはずの伊作が消えていた。
(やっぱりか!)
くるりと振り返ると、そう離れていない店先に、もさもさした黒い頭がしゃがんでいる。
それは、ひなびた文房具屋のように見えたが、覗いてみると穴あき包丁から竹箒まで、有象無象の雑貨がところ狭しとならんでいて、何の店なのか、判断に窮した。
見上げると、色褪せた青のビニール軒に、消えかかった文字で、「コマヤ」と読める。
西日差す店先のワゴンで伊作が目を留めていたのは、透明ビニールに小分けにされた、細い藁束だった。
よく見ると、先端に黒い泥のようなものが塗られており、古びた紙タブに、「線香花火」とあった。
伊作が微動だにせず、何も言わないので、留三郎はその一つを手に取った。
「あ、珍しいな、藁の線香花火か。へえ。」
「これ・・・黒色火薬だろ。」
伊作はそれだけを答えると、また押し黙ってしまった。
「欲しいのか。」
と言うと、
「いいかい?」
と振り返る。
その眼差しから、いつもの柔らかな微笑が消えていた。
つられるように、留三郎も酷く真面目な顔で、線香花火を一つつみ、買って。
それから二人はは何も話さずに、アパートへ歩いた。
日がとっぷりと暮れる頃、留三郎は伊作を河原へ連れ出した。
街頭の光も、車のライトも遠い、思いつく限り、辺りで最も濃い闇を湛える場所だ。
「火薬の燃える匂いは変わらないんだな。」
ライターからの火が、漸く花火に移ったとき、伊作はふと呟いた。
「帰りたいか。」
「うん。きっと、みんなが心配しているし。」
僕も会いたいよ。
そう呟いた伊作の横顔が、橙の火花に照らされて、闇に浮かんでは消える。
その目元は柔らかく緩み、声音は懐かしげに深かった。
些かも寂しげな様子でないことに、留三郎は驚きながらも小さく安堵した。
次々と、線香花火に火を点す。
懐かしい色をした光の花は、魔法のようにかたちを変えて、小さく、時に大きく爆ぜる。
牡丹から松葉、柳、散り菊。
そして。
じくじくと音を立てながら震える火芯から、はらりと菊が一片散って。
「あ」
落ちた火を追いかける、声だけが闇にぽつりと落ちた。
最後の一本を差し出されて、伊作はそれを受け取ったが、そのまま火を点さずに、懐へ仕舞った。
「仲間にも、見せてやりたい」
そう言って、照れたようにに笑う。
火薬に詳しい奴がいてね、もしかしたら作れるかもしれない。
一年の子が、喜ぶだろうなあ。
そんな他愛もない話に相槌をうちながら、留三郎はいつしか空を見上げた。
会話が途切れたところから、伊作もおもむろに空を仰いだ。
まだ薄寒い春の夜空に、まばらな一等星が浮かんでいる。
線香花火の残像が、星空と二重うつしに重なった。
仄かな星明りは、彼の地のそれよりもずっと少ないけれど、同じように繋がって、二人の目の前に果てなく広がっていた。
*************
ありがとうございました☆