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2025年07月01日
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焔 1
2009年03月05日
亀の歩みで書いています。
破:焔(ほむら)、はじまります。
深夜の城内。
庭の暗がりで、人知れず影が動いた。
身を包む忍び装束の暗い色目は、宵闇に溶け込むように紛れているため、余程目を凝らさなければその姿を捉えることすら出来ないだろう。
やや上背のある身丈に、きりりと結い上げた茶筅髷。
油断のない光を宿したきつい双眸が、覆面の奥から辺りを睨んでいる。
周囲に人のないことを確かめながらすっと茂みの間を抜けたその人影は一瞬、さやかな星明りにされられたが、それを見とめたものは誰一人としていなかった。
音もなく身を滑り込ませた大樹の影で、間者は息を細々と吐き、神経を研ぎ澄ませた。
やがて手元がそっと動いて、そこから風鈴(ふうれい)の音が、まるで凪いだ水面を滑る水の輪の如く、静寂を漂い行く。
その響きは、城内に休む誰の眠りも妨げないほどの微かなものであったが、女中部屋の暗闇できり丸はすっと瞼をさし開けた。
まどろみを振り払うように二三度瞬いて、傍らの気配がふと変わったことに目をやれば、先ほどまで眠っていたはずの乱太郎が、寝床の中からこちらをじっと見つめていた。
(きり丸)
(ああ、今夜は俺が行く)
唇だけで交し、小さく頷いたあと、乱太郎は見事に「寝ぼけた女声」を作ってみせた。
「きり子ちゃん、御手洗?」
顔はにやりと笑いながら、きり丸も調子を合わせる。
「起こしちゃったかしら、ごめんなさいね」
「ううん。いいのよ、いってらっしゃい」
ふときり丸が乱太郎の向こうに目をやると、片手片足を上掛けから見事にはみ出させて大鼾のしんベエが、心地よさそうに寝返りを打った。
(しかし、しんベエの奴ほんとに良く眠ってるな)
(ほんとにね)
敵地に潜入していることすら忘れていそうな風体に苦笑して、じゃ、入ってくるわと背を向けたきり丸だったが、 「・・いってらっしゃい・・」 寝言まじりなのか、しんベエののんびりと深い声に呟かれ、思わず振り向いて床の中の乱太郎と顔を見合わせた。
(まさか)
(まさかな)
密やかに笑いあって、きり丸は冷えた外廊下へそっと抜け出していった。
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きり丸が好きすぎます。三人組がいとしすぎます。
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