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2025年07月01日
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焔 2

2009年03月05日
すごく書くのが楽でした・・・
手抜き?ちっ、ちがうよ。
だって声だけなんだもの。
たまには会話多用もいいと思います!うん!







きり丸は薄い板壁にひたりと背を貼り付け、静かにその向こうの気配を伺った。

姿は見えなくとも、信頼という名の確信がある。

閉じた瞼のうらに、見えるようだった。
チャミダレアミタケ忍者隊の装束に身を包んだ、「先輩の姿」が、おそらく壁の向こうに潜んでいる。

今の自分と鏡合わせに、背を壁に預けて。
しかして、その正体は。

待てば、ややあって、押し殺した声だけが低く問いかけてきた。

「好物は」

自分よりも一層と殺した気配。

まるで誰もいない場所からか声がしているような錯覚に、きり丸は内心空恐ろしさを感じてにやりと口角を上げた。

「銭・タダ・安いに豪華なごほうび」

さらさらと言ってやれば、壁の向こうの張り詰めた気がふわりと緩む。

途端に人らしい気配が零れてきた。

ため息交じりに「やっぱりきり丸か」と、苦笑するいつもの声色は、どこか楽しげに聞こえた。

「陽忍組はどう?何か解った?」

「おう、色々とな。庄ちゃん、そっちは?」

「殿は首謀の幻術遣いとはやはり別人だ。留三郎先輩が言うには、紅葉谷で料理番に化けていた男が一人、行方が解らないらしい」

「そいつが殿様に成り代わっているというわけだな

「推測だけどね」

「それで、どうする?」

「きり丸たちは雲黒斎と闘ったことがあるんだろう?どう思う」

うーん、と唸ってきり丸は天井を睨みあげるようにしながら考えを巡らせた。


「雲黒斎の術は確かに凄い。凄いがその遣い方を間違えているから信用が薄いんだ。それをうまくつけば、協力者を奴から引き剥がせるかもしれない」

「なるほど・・・。それはいいかもしれないな。先ずは偽の殿様に揺さぶりをかけてみようかな。そちらの情報は?」

「あんま派手なのはねえけどなあ。乱太郎が厩の爺さんから聞き出したんだが、この城の家来でも下の方の人間は最近の殿様は変だと思ってるらしいぜ」

「うん、敵も完璧に城を手中に収めているわけじゃなさそうだね。使えるかもしれない。」

「あ、そうだ。ヒキガエルの件はどうなったんだ?」

「陰忍組の三治朗が色々と調べてくれたけど、特にこのあたりで増殖していることはなさそうだって」

「じゃあ幻術薬は・・・」

「うん、この城を乗っ取る前に用意してあったんだ。じつに計画的な犯行だね」

「ちえ。カエル殲滅作戦は潰れたな。楽できると思ったのによー」

「しょうがないね。学園からの伝書鳩には何かあった?」

「いや特に何も・・・あ。そうだ。」

「何?」

「団蔵の実家の馬が二頭ほど盗まれたらしいぜ」

「珍しいこともあるもんだね」

「団蔵、女装を忘れて切れかけてさ、只でさえごっついのに。周りの女中ら連中がどん引きだったぜ」

「うわあ・・」

「それでも虎若よりマシだけどな」

「僕、まだ会ってないんだけどまあ、想像つくよ。」

「やっぱクジ引きで決めるもんじゃねえよなあ」

「兎に角、仕掛けるのははまだ先だ。合図するまで、皆にあまり無理しないように伝えておいてくれ。」

「おう。そっちもな。」

「うん。食満先輩に教えて貰った秘密の通路が凄く助かってるよ。兵太夫たちもね・・。でもあの得意武器、難しすぎてそれだけがヒヤヒヤする」

「こなしてるだけでめっけもんだろ、それ。・・・それにしてもここ、臭えなあ」

「・・・便所だからな」

「あ、この便所紙、反故紙じゃねえか。勿体無い。」

「持って行くなよ、きり丸。売る機会は暫く無いんだから。」

「ちっ。」

どれもう一枚と伸ばした手をまるで見ていたかのように諌められ、きり丸は面白くなさそうに舌打ちした。

そのとき、風を切る微かな音が、不意に耳をくすぐった。

ぴたり、と場の空気が止まる。

「伊助の合図だ、人が来る」

「おう、散開・・」

小声で囁くと、手にした反故紙をそっと紙束に戻し、きり丸は建付けの悪い戸を押し開けた。

見れば、既に隣の個室はもぬけの殻となっており、開いたままの戸から虚ろなほの暗さが覗いている。

(すげ)

瞬き一つして、きり丸はそろりと一歩を踏み出した。

膝を、多めに曲げて柔らかく足を運べば、女の背を遥か超えてしまった自分でも小柄を装うことが出来る。

伊助の合図どおり、厠近くですれ違った木戸番もにこやかにかわして事なきを得た。難しいことではない。
女装は見かけではない、仕草と心意気だというのが持論の某実技担当教師のせいで、こればかりはクラス全員が一等得意の変装になってしまった。

幸か不幸か、と呑気に思い悩みながら、きり丸は夜風の冷たさに首をすくめて、暖かい寝屋へと急いだ。




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わ た し は き り 丸 が す き す ぎ る
 
きり丸を書いていると幸せな気分になります。
伊作先輩とはまた別の幸せ。
勝手に動いてくれる、小気味よさが乱きりしんにはあるみたいです。
「好きだ」と言っても言っても言い足りないほどの大好き。
ときめきを通り越したこれはもう、体にしみついたものなのかも知れません。
このシーンを書けて、本当に幸せでした。
情け無いことですが、今思うと、本当に恋だったと思います。


 

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