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2025年06月30日
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白妙に

2009年01月08日
書き出しのみ、書いてみました。
まだ全体は、できていません。
これこそが見切り発車なのですね。

冬を迎える、の続きになります。
例えば、夜というものの長さ。
宵の内でも、この刻限が一番に冷えること。
今宵のように、星の美しい夜はことさらに。
光に満ちた真昼の対極にあって、人々を眠りへと誘うこの闇の、全てを知る物は少ない。
自分のように、闇に生きる者達の他は。
仙蔵は、暗い茂みに身を潜め、氷と水の狭間で揺れる足元の夜露が、きらきらと不思議に輝きながら震える様を見つめた。
時は、満ちた。
路の向かいに見えるあの家で、彼(か)の友は深い眠りに落ちた頃だ。
忍びとしてのその実力は染み入るほどに知ってはいるが、夜通し山中を駆け、今しがた辿りついた自分の気配を拾う術はない筈である。
全てがここに通じるように、仕組んだのは他ならぬ自分。
まったく、自分は何をしているのだろうと胸の内で呟きながら、仙蔵はするりと黒覆面を引き上げた。
 
(だが、これで仕舞だ。一気に片をつける)
 
腰にした刀の柄を確かめるように握り締め、闇の中へと身を躍らせる。
音もなく、地を蹴る足に跳ね上げられた夜露が、空中で透明に結晶した。
風の中、一途に見開いた瞳に薄い涙の膜が張る。

寒さのせいだ。
そうだろう、
 
―― 留三郎 ――
 
 

 
 
 
 
ぽとり
 
 
戸外からの微かな音に、伊作はふと振り向いた。
何故であろうか、障子戸からの庭の眺めは、今朝よりも僅か、寂しげに映る。
そうか、と伊作は薬研を使う手を止めた。
ここ数日の小春日和に狂い咲きの、大輪の赤い椿がひとつ、落ちたのだ。
潔く首から落ちたそれは、乾いた苔の上に、美しいまま転がっている。
冷えた飛び石に裸足のつま先をついて拾い上げると、しっとりと色濃い花びらに、白く露蜜が零れていた。
もったいない、と呟きながらも、思わず指で掬ったそれは、一瞬、唇に密やかな甘みを香らせるようにして、やがてはかなく消えていった。
紅葉のひときわ美しかったこの年の秋は、瞬く間に移ろった。
ひととき、鮮やかな彩色を纏った山並みも、今は灰茶色に沈み温かく眠っている。
縁に腰掛けて眺めていると、その紅葉の盛りと共にここを訪れ、去っていった友の後姿が思い出された。
あれから、仙蔵はどうしただろうか。
その敵となったであろう、無二の親友は、無事でいるのだろうか。
信ずることは、案じないことではないのだ、と、思い知らされるような気のする、この頃であった。
遠い谷川のせせらぎに紛れて、重い足音が山道を近づいてくる。
物言わぬことの代わりに。
己の来たことを知らせるような、ゆっくりとした足運びが懐かしい。
伊作はざっと足裏を払うと、火桶の炭を起こしに立った。


 

訪ねて来た無口な友――中在家長次は相変わらずの仏頂面でむっつりとこちらを見つめてきたが、その口が元気か、と言う形に動くのをみとめ、伊作は思わずほほ笑んで「ああ」と答えた。
そうか、よかった。と言ったらしい長次は、屋内へと誘おうとする伊作を静かに制し、代わりに一通の手紙を出して、伊作に手渡した。
 
「僕に?」
 
穏やかな陽を受けて黄身色の、上質の和紙に記された、宛名書。
その、流れるような筆跡。
思わず見上げた長次の静かな瞳は何も語らなかったが、ただ小さく頷いた仕草に、伊作はある確信を深める。
そして一言、二言を交わした後、長次は来た路とは逆の方角へと去って行った。
持たされた干し柿を、二枝、広い背にぶらぶらと揺らしながら。


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これでやっと次の記事に参ります。

 
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